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「慰安婦」問題に焦点を当て、戦時性暴力の被害と加害の資料を集めた「女たちの戦争と平和資料館」(wam)のブログです。
安倍首相と人身売買(1) ワシントン・ポストを読んでみよう

●はじめに
2015年3月27日付の米紙『ワシントン・ポスト』に、安倍首相が「慰安婦」が人身売買の被害者だと発言したことについて、同紙では「『人身売買』との言葉を公に使ったのは初めて」との側近のコメントをわざわざ掲載していることからも、「一歩前進」イメージをつくるための戦略だったことは明らかだろう。しかも記者が「あなたは歴史修正主義者と呼ぶのは正確か?」なんてわざわざ質問しているわけで、米国議会での演説を前に、ワシントン・ポストもTeam ABEによって使われてしまったか、と思わずにはいられない。

今年3月半ばにワシントンDCに3日間滞在して、米国政府・議会関係者、シンクタンク、研究者と話をする機会があったが、「Team ABE」がいかに戦略的に動いているかを、「見る」ことはできなかったが聞くことになった。何百億だかの広報予算を増額しているんだから、億単位の金を米国でうごめく「日本通」(Japan handlers)にばらまけば、いくらでも、どうにでもなるのではないかと想像すると、私たちのような弱小な「民衆1人1人」に何ができるんだろうかと、頭がクラクラしてくる。

それでも、どこにでも誠実な人は居る。とりわけ、米国には、私のような一介のNGO職員の話でも聞くだけのオープンさがあって、それはおおむね誰と話していても感じたことだ。日本政府関係者が2人、公開イベントには来ていたというが、「慰安婦」問題で日本の責任を指摘するために来ていても、誰も話しかけない。そういえば、国連人権小委員会で、日本軍性奴隷制とイギリス軍によるケニアでの長期にわたる性暴力を繋げて発言したときも、英国代表部はすぐにコメントのコピーを取りに来たが、日本代表部は来ない。日本政府は自分たちに反すると思う市民社会のコメントは、これまでも、今も、ことごとく排除しているというか、相手にさえしないように見える。「慰安婦」問題を含むさまざまな戦後補償問題の解決の糸口さえみつからない一つの理由は、被害を受けた相手方やその支援者を排除したり高圧的な態度をとるなどして、対話の相手としてみなさず、意見交換をしていないこともあるだろう。

さて、「慰安婦」問題を巡るさまざまな事件が起こる中で、「正確に書く」ために時間をかけていると、時機を逸してしまうということがよくある。メディアもよくわからない「知識人」も、はたまた政治家も、間違いだと思われる情報をそのまま垂れ流しても誰からも咎められず、私たちのような「市民の書き手」が、ちょっと間違えただけでも信頼をなくすという状況が、少し不公平に思う今日この頃。「人身売買/取引」問題も、このままだと「安倍は一歩妥協したのに、韓国が反発」というイメージで固まってしまいそうなので、自分なりに整理をしてみようと思う。

●ワシントン・ポストを読んでみよう。
さて、まずは原文を見てみよう。正確に訳すには時間がかかるので、ところどころ簡単に大意を訳している。ワシントン・ポスト(2015年3月26日電子版)のリンクはこちら

まず、記者のDavid Ignatiusは、安倍へのインタビューのリードとして、以下のようにコメントする。

Abe walks a tightrope in his efforts to invigorate Japan. He wants a more robust Japanese defense policy without kindling fears of renewed militarism. He seeks a less apologetic, inward-looking Japan but said he doesn’t want to undo apologies by previous prime ministers about procurement of “comfort women” or other sins of World War II.


(大意)安倍は日本を活性化させるために、綱渡りのような努力をしている。彼は新たな軍事主義の恐怖をあおることなく日本の防衛政策をより強固にしたい。お詫びがちで内向きではない日本を目指しながらも、「慰安婦」の調達やその他の第二次世界大戦の罪に関する過去の総理大臣の謝罪を取り消したくはないという。


ちなみに、この記者の語彙で気になるのは、procurement。調達とか入手とかっていう意味の言葉を使っている。日本軍に渡された後の慰安所での被害ではなく、「連行部分」に焦点をあてているように見えなくもない。もう一つが、「sins of WW2」。crimeという犯罪ではなく、宗教的にも倫理的にも感じられるsin!? なぜ、このような言葉を選んだのかちょっと気になります。それに対する安倍首相の答えは以下。

“On the question of comfort women,” he said, “when my thought goes to these people, who have been victimized by human trafficking and gone through immeasurable pain and suffering beyond description, my heart aches.” An aide said this was the first time he had publicly referred to “trafficking” in connection with the women.


(大意)「慰安婦問題については、人身売買/人身取引の被害を受け、筆舌に尽くしがたい痛みと苦しみを経験された方たちのことを思うと、心が痛む」と彼は言った。側近は、これらの女性に関連して「売買/取引」との言葉を公に使ったのは初めてだと言った。


この部分がいま、さかんに引用されている発言部分です。この記事は、David Ignatiusによる安倍首相独占インタビューの抜粋なので、安倍が本当に何を言ったのか、いや本当かどうかはわからないけど、少なくともQ&Aの形で掲載されているワシントン・ポストの電子版インタビューの詳報をみてみましょう。インタビュー詳報・電子版のリンクはこちら

ここでもDavid Ignatiusがもったいぶった質問をする。

Mr. Prime Minister, let me ask you a question about history: Every country thinks about its history; every country wants to feel comfortable with its history. You sometimes are called, by critics and friends alike, as someone who’s a “revisionist” ー who wants to say that some of the things that Japan has been accused of doing in its past, as dark as it was, some of those things aren’t true. So I want to ask you: Is it accurate to say that you are a revisionistーthat you would like to revise the picture of Japan so that it is, in your view, more accurate?


(大意)総理大臣、歴史について質問させてください。どこの国も自国の歴史を考えます。どこの国も自国の歴史について心地よく思いたい。あなたはしばしば、批評家や友人からも「歴史修正主義者」だと呼ばれています(中略)。お伺いしたいのは、日本のイメージを修正して、あなたの見解によればですが、より正確なものにしたいという「歴史修正主義者」だと呼ぶのは正確ですか?



A: My opinion is that politicians should be humble in the face of history. And whenever history is a matter of debate, it should be left in the hands of historians and experts. First of all, I would like to state very clearly that the Abe cabinet upholds the position on the recognition of history of the previous administrations, in its entirety, including the Murayama Statement [apologizing in 1995 for the damage and suffering caused by Japan to its Asian neighbors] and the Koizumi Statement [in 2005, stating that Japan must never again take the path to war]. I have made this position very clearly, on many occasions, and we still uphold this position. Also we have made it very clear that the Abe cabinet is not reviewing the Kono Statement [in 1993, in which the Government of Japan extended its sincere apologies and remorse to all those who suffered as comfort women].


(すみません、口ばっかりで気持ち悪いので、元気なときに訳します。)



On the question of comfort women, when my thought goes to these people, who have been victimized by human trafficking and gone through immeasurable pain and suffering beyond description, my heart aches. And on this point, my thought has not changed at all from previous prime ministers. Hitherto in history, many wars have been waged. In this context, women’s human rights were violated. My hope is that the 21st century will be the first century where there will be no violation of human rights, and to that end, Japan would like to do our outmost.


(大意)慰安婦問題については、人身売買/人身取引の被害を受け、筆舌に尽くしがたい痛みと苦しみを経験された方たちのことを思うと、心が痛む。この点において、私の考えはすべての前総理大臣とまったく変わっていないわけです。今日に至る歴史において、多くの戦争が起こされました。こうした状況のなかで、女性の人権が侵害されました。私は21世紀が人権侵害のない最初の世紀になるよう願っている、そのために、日本としても最大限のことをしたい。



「人身売買/取引」については、あとでまとめて検討したいが、訳語で言うと、日本の新聞はなぜ「victim」をすべて「犠牲者」と訳すんだろう。加害の主体があるこのような犯罪行為であり、かつ被害者たちは、数は少なくとも生きてるんですけど、ってつっこみを入れたくなる。
人身売買以外の発言内容はいつもと同じなので、同じことを指摘すると、どんなに「筆舌に尽くしがたい痛みと苦しみを経験された方たち」と言っても、被害をを与えた主語なく、「心が痛む」と言っているところでアウトである。加害国の首相としては心が痛むだけでなく、その事実を受け止めて、謝罪が求められている。その意味で、安倍と「以前の総理大臣」はまったく違う。安倍より前の首相はちゃんと「お詫びapology」という言葉を発していた。安倍は「feel pain」とか「my heart aches」とか、誰でも言える言葉しか使わない。自分の責任を認めたくないからだ。他国による犯罪行為の被害者に対して、私たちはfeel painといってもapologyは言わない。安倍は、責任を認めていないという意味で、「以前の総理大臣」とは、まったく違うんです。

(続く)
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