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「慰安婦」問題に焦点を当て、戦時性暴力の被害と加害の資料を集めた「女たちの戦争と平和資料館」(wam)のブログです。
朝日新聞が世界の世論をつくったか?
昨日(2014年9月16日)、参議院議員会館で「もの言えぬ社会をつくるな」という集会が開かれました。そこで、8月5・6日の朝日新聞の「慰安婦」報道をめぐる昨今の報道について、論点を3点に整理をして反論を提示しました。短いものなので、発言原稿を以下に共有します。

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論点1:朝日新聞の吉田清治報道が世界の世論を作ったか?
答えは否です。世界に衝撃を与えたのは、1991年8月の金学順さんの名乗り出です。このニュースをきっかけにオランダ出身でスマラン事件の被害者、ジャン・ラフ・オハーンさんも名乗り出て証言することを決意しました。その後、台湾、フィリピン、中国、インドネシア、マレーシア、さらには東ティモールまで、被害者が立ち上がりました。吉田清治の証言をきっかけに立ち上がった人は一人もいません。そして、これら各国の女性たちの証言によって、「慰安婦」制度というのは日韓の問題ではなく戦時に広範囲に行われた性暴力、性奴隷制だったことが明らかになっていったわけです。

吉田清治証言の影響は、国内でも小さかったという実証的なデータをあげます。「慰安婦」で検索した場合の記事数は、吉田証言が出てきた1980年代は、朝日、毎日、読売はいずれも毎年1桁かゼロです。90年から朝日が2桁になり、92年は3紙とも3桁で、読売は294、毎日が341、朝日が454件です。これらの読売や毎日の報道も世論形成にどのような役割を果たしたのか、検証の対象にすべきだと言えるでしょう(1992年-1995年の4年間で、毎日1004件、読売848件、朝日1294件)。

論点2:クマラスワミ報告は訂正されねばならないか?
これも答えは否です。読売や毎日には報道されていませんが、クマラスワミ報告は、吉田清治の3倍の行数で秦郁彦の反論を載せています。吉田が5行、秦が15行。言ってみれば両論併記です。提出は1996年ですから当たり前ながら秦郁彦からの反論は届いていました。クマラスワミにしてみれば、意に反した連行がわかっても日本軍は解放せず、逃げられない状況の中で日本兵の性の相手を強いた、この事実は消えないので結論は変わらないわけです。連行形態が暴力的なのか、詐欺的なのか、人身売買なのかは、奴隷状態にあったかどうかを判断する決定的な要素ではありません。木だけではなく、きっちり森を見ているクマラスワミが報告書を撤回しないのは当たり前ということになります。

論点3:では現在の国際的な非難の原因を作ったのはだれか?
被害国だけでなく、米国やヨーロッパ諸国からも非難されるようになった、この原因をつくったのは間違いなく2007年の安倍首相による「狭義の強制連行」否定発言です。
これは私の経験を少し話します。私は国連ロビー活動を2002年から始めました。そして、人権小委員会、女性差別撤廃委員会、自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員会、2006年以降は人権理事会、それぞれに報告書をだし、ニューヨークやジュネーブで情報提供をしてきました。2002年の時点では、国連は「慰安婦」問題についてはすでに十分取り組んできた課題として関心は薄く、拷問禁止委員会でも現在の拷問で手一杯という対応でした。
その流れが変わったのは、2007年の安倍総理の「狭義の強制連行」否定発言です。補償問題だけではない、日本では事実さえも否定されていることが総理の発言で世界に知れ渡り、現在の人権問題であることがわかったからです。米国下院議会では2007年2月、被害者3人を招いて公聴会が開かれましたが、安倍総理の狭義の強制連行否定発言はその2週間後でした(ちなみに、日本では「慰安婦」被害者は一度も国会で証言することを許されていません)。そして4月に首脳会談で安倍首相がブッシュ大統領に謝罪することで鎮静化させようとしましたが、6月に桜井よし子らが事実を否定する意見広告をワシントン・ポストに出して決定的になりました。彼らこそ国際社会で日本の評価を落としている張本人でしょう。決議スポンサー数の増加の経緯を見れば、安倍総理の否定発言やワシントン・ポストの広告がスポンサーを増やしたのは明らかです。吉田清治も朝日新聞もまったく影響を与えていません。「朝日新聞が世界に向かってしっかりと取り消す努力が求められている」と安倍氏はNHKで言ったそうですが、しっかり取り消す努力が求められているのはあなたの認識です、と声を大にしていいたい。

アメリカで記念碑ができ始めたのも、第1基目はパリセイズ・パークで2010年10月、安倍総理の否定発言後でした。朝日の吉田証言報道が原因なら、1980年代に作られるはずではないでしょうか。条約等の判断には様々な見解がありますが、歴史の事実を否定することは、国際社会は認めてきませんでしたし、これからも認めないでしょう。

最後に、個人的には、朝日新聞は8月5-6日の記事を出す必要はなかったし、謝罪をする必要もなかったと思っています。まず、吉田証言については1997年3月に「真偽は確認できない」との記事を出している、それで十分です。ちなみに読売の報道によると、読売が吉田証言の「信憑性が否定された」と「明記」したのは2007年だそうです。挺身隊の用語については、みんな混同していましたし、読売も混同して使っていました。何よりも、制度的な問題とは別に、挺身隊という言葉が戦中戦後、韓国でどのように使われてきたかの検証がなされなければ、この混同については理解できません。1999年の高崎宗司氏の論文でも言説検証の必要性を指摘しています。植村隆氏については、彼が自分で取材の経緯を雑誌や手記で発表すればいいことで、朝日新聞社が社としてやる必要はなかったと思います。読売は、朝日ばかり検証して批判していますが、ぜひとも「読売新聞の報じた『慰安婦』展」を企画して、wamが検証してみたいとも思っています。

今年6月の河野談話検証結果をうけて、批判の矛先を失った産経や歴史修正主義者が、ここぞとばかりに利用する場を作ってしまった、朝日新聞はそのことを反省してほしいと思います。さらには購読者数を伸ばしたい読売や毎日まで参戦してきているなかで、朝日新聞が今、なすべきことははっきりしています。委縮しないで記事を書き続けることです。当初計画していたという、「慰安婦」被害者の証言、現在の戦時性暴力の取材などを精力的に書き続けてほしい、権力を監視する記事を書き続けてほしいとエールを送って終わりにします。ありがとうございました。

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集会概要:
「もの言えぬ社会をつくるな-戦争をする国にしないために-」
日 時: 9月16日(火)16時~18時
場 所: 参議院議員会館 講堂 (東京メトロ「永田町」駅、「国会議事堂前」駅下車)

自分の意見を公の場で堂々と述べることができる、またそのことによって不利益
を受けない-。表現の自由は、民主主義社会を保障する最も大切な基盤のひとつ
です。日本社会において今、その根幹が大きく蝕まれつつあると感じている人が多いの
ではないでしょうか。

安倍政権は集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、戦争のできる国づくりを着々
と進めています。国家が戦争を遂行するに当たり、一番邪魔になるのが、国民・
市民の自由な意見表明と政治参加、そして報道の自由です。これら言論に対する封殺は、
過去の歴史認識や歴史的事実そのものさえ捻じ曲げてしまいます。

今こそ、もの言えぬ社会をつくらせず、戦争国家への道をストップさせるために、
様々な分野の人々に集まっていただき、問題提起と発言を受けていきたいと思います。
たくさんの市民、メディアの皆さんの参加をお待ちしております!

発 言: 
渡辺美奈さん(女たちの戦争と平和資料館[wam]事務局長)
北原みのりさん(ラブピースクラブ主宰)
黒澤いつきさん(明日の自由を守る若手弁護士の会共同代表)
伊藤和子さん(弁護士、ヒューマンライツ・ナウ事務局長)
永田浩三さん(武蔵大学教授)
前田朗さん(東京造形大学教授)
篠田博之さん(月刊「創」編集長)
新崎盛吾さん(新聞労連委員長)
内田浩さん(出版労連書記次長)
清水雅彦さん(日本体育大学教授)
中野晃一さん(立憲デモクラシーの会呼びかけ人)
森達也さん(映画監督)
海渡雄一さん(弁護士)
佐高信(評論家)
[順不同]

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