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「慰安婦」問題に焦点を当て、戦時性暴力の被害と加害の資料を集めた「女たちの戦争と平和資料館」(wam)のブログです。
拷問禁止委員会での審議
橋下大阪市長による女性の人権否定発言は、今日の外国人記者クラブでの会見でも正されることはありませんでした。しかし問題は橋下だけではありません。昨年来、「河野談話」を撤回すると公言し、予算委員会でも証拠はなかったといい続けた安倍政権であり、米軍基地周辺で強かん事件が続いているにもかかわらず、不処罰の連鎖を断ち切るために米国との地位協定を見直さず、基地の撤去も進めない、日本政府と米国政府の姿勢にこそあります。


先週行われた拷問禁止委員会の日本審査でも、再発予防を含めた被害者の救済を実施しない、日本政府の態度が問われました。橋下のような否定発言にどう反駁するのか、どのように教育していくのかを質した委員の質問に対して、日本政府はいつも通り、質問には答えず、自らの主張を繰り返していたのです。

wam会員と、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動のネットワークに向けた報告を、ブログにも掲載します。拷問禁止委員会の勧告は、6月1日前後を予定しています。


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2013年5月21-22日、第50会期拷問禁止委員会において2回目の日本報告書審査が行われました。拷問禁止条約は、正式には「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条約」。1987年に発効、日本は1999年に加入しており、第1回目の審査は2007年で今回は2回目です。


5月21日(ジュネーブ時間10:00-12:00)は、日本政府の上田秀明人権人道大使が20分程度の簡単な報告をしたのち、委員から1時間半以上にわたって質問がありました。内容は多岐にわたり、拷問の定義や代用監獄、検察制度、精神医療、入管制度、死刑制度、拷問被害者への補償、女性に対する暴力、そして、日本軍「慰安婦」問題についても言及・質問がありました。


5月17日の委員会主催のNGOとの意見交換会において、wam/全国行動から橋下発言の報道(BBC及び共同通信)、教科書における「慰安婦」記述がなくなったことを伝えていたので、教育および橋下大阪市長のような否定発言に対して、日本政府の対応を問う質問が多くなされました。


George Tugushi(ジョージ・トゥグシ、グルジア出身)は、謝罪が真摯なものとして受け止められていないこと、法的責任を認めていないこと、事実を否定したり、加害者を処罰していないこと、またアジア女性基金は不十分であって、被害者は公的な謝罪、国家責任を認めての補償を求めていること等、まずは全般的なこれまでの経緯をあげました。そして拷問禁止条約の締約国である日本は、「慰安婦」に関する正確な記録を残すためにどのような措置をとっているのか、「慰安婦」の歴史をどのように教育しているのかを質しました。


Nora Sveaass(ノラ・スヴィアス、ノルウェー出身)は、日本政府からは1993年の河野談話やその他のいいわけを前回に引き続き今回の審査でも聞いているが、日本で再びこの問題が世間でも取り上げられているなか、このような負の歴史に関して悪かったこととしてどのように教科書に記述されるのか、また最近の否定発言をうけて、より強力な謝罪と賠償がなされるのか、あらためて情報を提供するよう求めました。


Felice Gaer(フェリース・ギアー、米国出身)は、今回は議長をしていますが、委員として発言すると前置きして、非常に明確な委員会の見解を示しました。まず、日本政府は、「慰安婦」制度が拷問禁止委員会は条約締結前のことなので管轄外だと説明しているが、拷問禁止条約10条(公務員等への教育)と14条(賠償)に関連して、委員会は予防のための措置について情報を求めていることを明確にしました。そして委員会の前回の最終見解では、締約国が性別とジェンダーに基づく差別の根源に取り組む教育を実施すること、不処罰防止を含む被害者のリハビリテーションの手段を提供することを勧告しているが、これらを実施していないことへの懸念があり、とりわけ事実の否定による継続する被害、トラウマの再発を指摘しました。そして、wamから提供した資料で、教科書記述がなくなっていることを指摘して(日本政府は教科書記述については報告していない)、このような状況で、性虐待、人身売買、奴隷化のような搾取の文化を予防するために、どのような教育をしているのかを質しました。
2点目として、委員会がリハビリや被害回復のための一般勧告3号を採択していることに触れつつ、日本政府が謝罪以外に何も被害回復措置を実施していないことを指摘しました。橋下大阪知事が性奴隷や性搾取が必要だった、さらには強制の証拠は示されていないと発言していること、これに対しては、よくある否定論者の説明であり、委員会としてはこのような説明は受け入れないとはっきり言いました。そして、女性たちが自由に移動できたり、商業的な人身売買に見えるものがあったとしても、これらはすべて軍の管理のもとにあったのであり、歴史、証言、軍の証拠によって民間業者の役割、軍医の検査などもあり、このシステムへの合意がないことは明らかで、歴史家の研究によって、虚偽広告、欺罔など、拉致や虐待の形態であることは明らかであることを指摘しました。そのうえで、教育とリハビリテーションを通して、国はこれらの問題に対処することができる、補償を求めている存命の被害者がまだ多くいるなかでどう考えているのか、また政府の立場と違う地方政府の関係者の見解にどのように明確に反駁するのかを質しました。
 日本の報告者のひとり、Fernando Marino Menendez(フェルナンド・マリーニョ・メネンデス、スペイン出身)も、簡単に触れてまた質問すると発言していました。


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さて、これらの様々な質問に対する日本政府の返答は、5月22日(ジュネーブ時間 15:00-18:00)に実施されましたが、日本政府の見解はこれまでとまったく変わらないというか、後退したともいえるものでした。

「慰安婦」問題については、外務省の人権人道課の阿部課長が回答しました。要約すると「まず、「慰安婦」問題は70年前の第二次大戦の際のできごとである。拷問禁止条約は1987年に発効、日本が締結したのは1999年なので、我が国としては、「慰安婦」問題はこの条約の対象にはならないと理解している。そのうえでいうと、「慰安婦」問題は筆舌に尽くしがたい辛い思いをした方々がおり、心が痛む問題であると認識している。そうであるがゆえに、1995年の村山総理、2005年の小泉総理がそれぞれ総理大臣の談話を発表し、「慰安婦」を含む過去の問題において、多大の損害と苦痛を与えた、アジアの人々に対して、心からの反省とお詫びの気持ちを表明したものである。当時の小泉総理大臣は、個別に心からのお詫び、手紙を送る形で明らかにしている。村山談話や小泉総理の元「慰安婦」への手紙は、総理官邸、外務省のホームページで誰でも見られる。補償についての日本政府の基本的な考え方は、サ条約、二国間条約で誠実に対応してきているので、法的に解決されている。しかし、高齢の被害者の現実的な解決のため、1995年7月、アジア女性基金は官民の協力によって設置され、日本政府から48億円、民間から役6億円の寄付があった。政府としては、こうした努力を引き続き行っていく考えで、同基金のフォローアップも引き続きやっていく。また、慰安婦の方々について20万人という指摘があったが、まったく根拠のない数字であると理解している」。


・・・とまあ、こんな具合でした。まず、最近は「心が痛む」というばかりで、「お詫び」さえ言わなくなっています。このことは拷問禁止委員会へのNGOレポートでも報告していたので、証明されて良かったかもしれません。また、小泉総理からの個別の手紙というのは、その場で外務省のページを検索しましたが、国民基金を通じたもののようです。また、「20万人に根拠がない」という見解を条約委員会で主張するのは、私は初めて見ました(人権理事会では発言していましたが)。


これに対し、委員からの再質問では、Fernando Marino Menendez委員が、国民基金の政府予算について質問しました(これは、前日の委員の質問で、「国民基金に対する政府の資金は少ない」という趣旨の発言があったので、政府の拠出は48億円という大きなものだったが、被害者に直接渡されたのは7億5500万円のみであるという追加情報を渡していたためだと思われます)。
Felice Gaer委員は、否定発言など懸念事項を繰り返したうえで、教育と教科書の状況について改めて質問しました(Gaer委員は、政府の報告が大幅に時間オーバーしたために議長である自分は質問を諦める、でもひとつの例外を除いて・・・と前置きして、「慰安婦」問題に関してのみ再質問してくれました)。


日本政府の回答は、国民基金の事業と教科書検定制度の説明をし、教科書の記述するかは執筆者の判断に委ねられている、という従来の説明を繰り返し、「慰安婦」について記述されているものも複数発行されていると答えるのみでした。

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「慰安婦」問題に関する報告は以上です。ちなみに韓国大使館の関係者も傍聴に来ていました。


以下は番外編です。
拷問禁止委員会ですから、刑事司法の問題を追及するNGO関係者は複数参加していて(今回は日本から20人以上のNGOが参加)、その中には布川事件の当事者、桜井昌司さんもいらしていました。
委員の再質問のなかで、ドマ委員が、取り調べの時に弁護士の立ち合いを認めない日本の制度や、自白偏重の日本の司法制度を批判して、「中世の名残といえるのではないか、国際標準と合わせていく必要がある」と発言していました。


審査の最後のシメに、上田人権人道大使が、「我が国は中世ではなく、この分野でもっとも進んだ国であります」と発言したので、NGOのメンバーがどっと笑いました。それで終わればユーモアセンスもある大使だったという話になるのですが、なんと「笑うな、なぜ笑っているんだ、黙れ、黙れ」と怒鳴ったんです。これには、NGOのメンバーも呆れてしまって、桜井さんも「中世・日本」と笑っていましたし、最後にドマ委員に挨拶したときも「テクニカルな問題ではない、正義の問題なのにね」と落ち着いて話していました。「ショー」としては面白かったけれど、なんだか後味が悪いものです。


最後になりますが、今回の拷問禁止委員会への参加は、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動の派遣によるものです。みなさま、ご支援ありがとうございました。
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